
季節に急かされて作るお菓子 / 創作は妄想から始まる / 甘いだけがケーキじゃない
酸っぱくて美味しい失敗 / 無いなら作ればいい / 自分にしかできないことがある場所
25歳、味のない記憶 / 東京で出会った食にアツいベーカリー / お菓子屋がサトウキビを収穫する理由

ぶどうのたねにて。
高知でイタドリがこんなにも愛されるのはなぜか、
そんな小さな謎を解き明かす探訪の旅。
マツオカパウンドの次に立ち寄ったのは、
国産小麦と自家製酵母で作るパンが人気のぶどうのたね。
全3回にわたるインタビューでは、
イタドリをつかったぶどうのたねらしい料理とそのレシピ、
イタドリにまつわる思い出、食につまづいた記憶まで。
「食べる」って、いつも楽しくて幸せな姿を
しているとは限らない。時に苦しく、辛いものだったりもする。
それでも、今日も明日も食べなければ生きていけないから。
明日の「食べる」をちょっとだけ愛でることができますように。

サキマイさん
正解の味はレシピにない / 食を楽しむ手引き / 差し迫るものがあるから焼いている
買うほどではない / パン屋を作った謎の自信 / 食べられる陶芸的な仕事
正解の味はレシピにない / 食を楽しむ手引き / 差し迫るものがあるから焼いている
2025.2.16.Sun
イタドリの梅バター醤油バゲットサンド
正解の味はレシピにない
― ぶどうのたねらしいイタドリ料理、どんなものを作りますか?
イタドリの梅バター醤油バゲットサンドを作ろうかなと。
いつも本当にシンプルなものしか作らない。
米と卵とシンプルな料理が好き。
あと、野菜をただ煮ただけとか。そこに、醤油をたらしたり、
ちょっとずつ味付けを加えていくことが多いんよ。
調味料もそんなたくさん使わないからわかりやすいと思う。
― いつも料理するときの相棒ってなんですか。
え……酒…。ビール、IPA、青鬼。
青鬼を美味しく晩酌するために、朝、昼、食べない。
で、だらだら作ったほうが美味しいのが作れるんよ。

― 食べるだけじゃなくて作ることを楽しんでますね。
料理って、大さじ・小さじとか分量を計って作るより、
呑みながら作ったほうが楽しいと思うんよね。
そもそも、素材の違いがあるからな。
香りの弱いにんにくもあれば強いのもあるし、
味の濃い醤油も薄い醤油もある。
だから、レシピ通り作っても全員同じ味にならん気がする。
失敗したらまた作ればいいし、
「美味しい」の物差しって人それぞれ違っていていいよね。
イタドリジャムのパウンドケーキ

【材料】※全てお好みの量
塩漬けイタドリ(塩抜きせずに使用)
にんにく
お好みのきのこ
白菜(お好みの葉物で◎)
バター
梅干し
バター
オリーブオイル
【作り方】
❶鉄のフライパンでオリーブオイルを熱し、
にんにくを焦がさないように炒める。
❷いい香りがしてきたら、きのこを加える。
❸きのこがツヤツヤしてきたら葉物を加える。
❹葉物に7割くらい火が通ったら、切ったイタドリを加えてサッと炒める。
❺"❹"をフライパンの片側に寄せてから、醤油を鍋肌から加えて焦し醤油を作る。
❻フライパンを何度か振って、全体が合わさったら、
火を止めバターを溶かし合わせる。
お好みで叩いた梅も混ぜ合わせる。

― 焦がし醤油の香ばしさとバターのコクが合いますね。
キノコとイタドリの食感が歯ごたえ良くて、ご飯が進む味がします。
梅って料理に使うと全体の味を締めてくれていいですね。
梅とバターの組み合わせって美味しいよね。
夏はここに大葉を加えてもいいし、
具の味付けを濃くしてパスタと一緒に食べても美味しいと思う。
― パンも切る前から甘い香りが香ってきて存在感がすごいありますね。パンだけでワインが進んでしまいそう。
バゲットサンドのパンはレーズン酵母のパンを使ってる。
やっぱり焼き立てにはかなわないよね。
食を楽しむ手引き
― 「ぶどうのたね」の名前の由来は、
レーズンで酵母を醸しているからですか?
そう、最初はレーズン酵母だけでパンを作ってたから。
今は米こうじ酵母のパンも作るようになったんよ。
だから、"ぶどうのたね"だけじゃなくなった。
お客さんには、どっちがおすすめかってよく聞かれるんやけど、
どっちも美味しいと思って焼いてるから選べんのよね。

― そういう時はどう答えているんですか?
「ワインと食べるならレーズン酵母パン」とか
「日本酒と食べるなら米こうじ酵母パン」とか言ってみたりする。
だけど、多分酔っぱらったらわからんと思う(笑)
それぐらい些細な違いかもしれんけど、思い込みって大事やからな。
それっぽいことを言ってみたりしてる(笑)
― 食を楽しむには、意識して味わうことっていうことなんですね。きっかけは、きっとなんでもよくて。
差し迫るものがあるから焼いている
― パンはどこで買えるんですか?
今は毎週土曜日、高知オーガニックマーケットへの出店がメインかな。
マーケットで出会う人たちは面白い人が多くて。
そこで出会った同じ町の農家さんの天日干し小麦を
パンにも使ってるんよ。
天日干しって手間がかかるけど、乾燥器で乾燥させるよりも
生きた菌がたくさん残っていて、パンの発酵には欠かせない。
それを、工房で石臼挽きしてもらってる。

― 市販の小麦粉と、石臼挽きしたてのものって、どう違うんですか?
パンの生地が元気になるんよね。
石臼で挽くと、小麦の断面が複雑になって
酵母が小麦に食いつきやすくなるから、発酵しやすくなるんよ。
あと、普通の小麦製粉は、鉄製のロールで挽くから
摩擦ですごい高温になるやん。
そうするとせっかく小麦についている酵母が死んでしまうんやと思う。
挽き立ての小麦粉と、ゆっくり育てた酵母で作ったパンは、
出来上がった後の寿命も長いんよ。
常温で1週間、冷蔵で1か月は持つと思う。
― じっくり時間をかけて作られたパンは、長く楽しめるんですね。
今日焼きたいからって今日仕込めば焼けるものじゃないから、
仕込んでしまった後は常にパンに追われているやけどね。
2・3日後から数週間先の仕込みまでやってるから
簡単に死ねないなと思ってる。
差し迫るものがあるから、パンを焼いているんやと思う。