
季節に急かされて作るお菓子 / 創作は妄想から始まる / 甘いだけがケーキじゃない
酸っぱくて美味しい失敗 / 無いなら作ればいい / 自分にしかできないことがある場所
25歳、味のない記憶 / 東京で出会った食にアツいベーカリー / お菓子屋がサトウキビを収穫する理由
週末は水着とおにぎり持って家族でイタドリを採りに行っててん。
でかいゴミ袋六袋分のイタドリを
ビニールシートに広げて、真ん中に座る父の横に、私たちが気まぐれに行っては、剥いだりして。
大人になっても、その時のめんどくさかったトラウマがしばらく抜けなかったよね。
EARTHLING
STUDIOにて。
イタドリのフリット、イタドリのチヂミを囲みながら、
店主・あゆみさんの記憶に残るイタドリと父の姿を
EARTHLING STUDIOのお弁当とともに
振り返ってきました。
Vol.3では、「25歳の頃、何してた?」という質問から、
苦難を乗り越えるためにあゆみさんがたどり着いた、
食とのシンプルな付き合い方を探ります。
「これとこの組み合わせ!?」と驚くような美味しさを
作る原点には、塩と向き合う姿勢があったり、、?
あんな料理人、こんな料理人も、25歳を振り返れば、
意外と”普通”だったりするのです。
その変遷には、明日のご飯を少しだけ
「美味しく」する秘訣が隠れてるかも。
ぜひご覧ください。
2024.10.20.Sun
感度のいい味覚を削り出す方法
25歳の頃、何してた?
25歳の時が、人生で一番混沌とした年だったと思う。
ちょうど交通事故に遭って、病気に罹った頃。
ずっとトンネルから抜けられない感じがしてた年やな。
ー 交通事故?
そうそう。
アルバイトしながら音楽活動をやってたんやけど、
そのアルバイト中、自転車で大きなタンクローリーに轢かれて。
やけど、手首の骨折だけで済んだんよ。
ー すごい、、奇跡的ですね。じゃあ、すぐ仕事に復帰したんですか?
いや、幸い、歌を歌って稼げるようになって。
そこから1年間ぐらいは、どっぷり音楽。
でもね、やっぱり仕事だから、自分の表現したいものと
違うことも求められ続けてしまうんよね。
音楽って、私にとってライフワークであり、
息するのとあんまり変わらんことなんよね。
だから、どっかでずっとストレスを抱え込んで、
それでも、稼ぎの良さから抜けられなくて、
そんな状態で半年以上やったかなと思う。

それで、気づいたら疲れ果てて、 ストレスの病気に
なってしまった。
消化をするために必要なエネルギーが足りなくて、
お米すら食べれなくなって、
ガリガリに痩せてしまったんよ。
最終的には、野菜と果物と、ヨーグルトとか、
チーズと、あと、小麦をちょびっとだけ食べてた。
生きる力が超弱ってたよね。
根本的にその病気を解決するには、
今の生活をやめないかんわって思って、
全然違う環境に自分を置くことから始めた、
そんな時期やったな。

オーガニックマーケットには、焼菓子を中心に出店している
病気を患った身体が本当に求めていたもの
ー 体調を崩したことがきっかけで、
食べ物への向き合い方が変わったんですか?
変わったね。食べれるようになってきたとき、ちょうど、
玄米菜食料理のお店の料理に出会ったんよね。
そこの料理を食べてから、徐々に生きる力が戻ってきて、
食べれるものが増えていった。
今のEARTHLING STUDIOの原点にある考え方が、
そこで生まれたんだよね。
どんどん新しいものを身体にとり入れるんじゃなくて、
今あるものからどんどん削っていくことをし始めたの。
ー 今あるものを削っていく?
私、本当に無駄なものをいっぱい体に取り込んでたなって
いうことに気づいて。
そうじゃなくなったら、めちゃくちゃ楽になったんよ。
体も考え方も生活も、全てが楽になって。
いかに楽に生活するかっていうことが、
楽しく生きられるっていうことやって。
ー 食べ物だけじゃなくて、モノも情報も、多いですよね。
楽しく生きてるように見える人でも、
すごく周りを振り回していたり、めっちゃ浪費してたり。
楽しく見せてる人はいっぱいいるやんか。
すごい華々しくて、キラキラしてて、楽しそうに見える人とか
モノ。そういうところに憧れていた時期もあったけど、
実態はそうでもないかもしれないよねって気づいてから、
全然そっちに興味がなくなっていった。
同時にその時期から、テレビのない生活に突入して
またさらに楽しくなったんよね。

感度のいい味覚を削り出す方法
ー 具体的に、食べるときに意識していることはあるんですか?
例えば、みりん1個でも、純正に作られて、
そのまま飲める美味しいみりんと、味がつけられたみりん。
どっちがシンプルなんてなったら断然、純正の方やんか。
食材選ぶ時に知らん横文字、カタカナが
入っちょったりしているものは、使わなくなった。
そしたら、どんどん体が元気になっていくのがわかったんよね。
もうね、塩、コショウだけで、十分美味しい料理が作れる。
その塩をどんな塩を使うのか、コショウを
どんなコショウ使うのかで、味が変わるからね。
味を変えたければ、塩を変えるっていうところが
大事なんやと思う。
塩の種類をいくつか持っとくとかね。
ー その違いをちゃんとわかる舌を
育ててくっていうのが大切なんですかね。
そう、あのね、育てるんじゃなくてね、それこそ、
削っていくことやと思ってる。
人って五感が本当に鈍いねん。みんな。使ってないから。
使う調味料を減らすことで、まず、味覚が研ぎ澄まされる。
素材の味とか、味付けに使われている要素が、
食べてわかるようになってくる。
で、嗅覚も味覚に付随して鋭くなるやんか。
なんかいらんもんが入ってるやつって、もう、
匂いでわかるようになる。
そんなふうに、全ての五感が研ぎ澄まされるようになっていく
から、生活も楽になっていく。
なんか、情報に頼らなくても済むようになるんよね。
ー あゆみさんが、作りながら何回も味見してるのを見てると、
舌を頼りに料理しているんだなって伝わってきます。
そうね。想像することから始めるけど、
実際に舌で確認していく作業なのかも。

味見から始まり、味見でキメ る
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塩漬けされたイタドリは、マニュアル通りだと、
6時間ぐらい流水につけて塩抜きをする。
でも、あゆみさんの作るイタドリの料理は
どれもさっと水で洗うか、5分くらい水につけるだけ。
それに、ほかの味を染み込ませることはほとんどない。
「それでいいの!?
レシピに半日塩抜きしなさいってあるけど」
喉元までこみ上げる気持ちを抑えて
フリットを食べた。塩味も酸味も、
ほとんどそのまま口に運ばれるが、
それがほのかな甘みと、ジューシーな油と
絡み合っていて美味しい。
初めて、塩漬けイタドリをEARTHLING STUDIOに
持っていった日のことを思い出す。
あゆみさんがおもむろに袋を破いて
イタドリをそのまま味見しだしたから。
「うん、そんな塩気も強くなくて、酸味も残ってるね」
そうつぶやきながら、
手元のイタドリに何が合うか想像しているようだった。
足し算された美味しさの足元には、
たった一つの食材を味わうという引き算が必要だ。
その連続が、足し算によって美味しい一皿を
作り上げるレッスンにもなる。
今晩は、鍋に振り入れる前に塩をひとつまみ、
味わってみようと思う。