
季節に急かされて作るお菓子 / 創作は妄想から始まる / 甘いだけがケーキじゃない
酸っぱくて美味しい失敗 / 無いなら作ればいい / 自分にしかできないことがある場所
25歳、味のない記憶 / 東京で出会った食にアツいベーカリー / お菓子屋がサトウキビを収穫する理由

マツオカ
パウンドにて。
高知でイタドリがこんなにも愛されるのはなぜか、
そんな小さな謎を解き明かす探訪の旅。
Atelier tsumugiの次に立ち寄ったのは、
季節の果物や野菜を使った焼菓子が人気のマツオカパウンド。
全3回にわたるインタビューでは、
イタドリをつかったマツオカパウンドらしい料理とそのレシピ、
イタドリにまつわる思い出、東京で出会った美味しい話まで。
へこむような日でも、忙しい日でも、
ご飯が「美味しい」って思える限りは、上出来。
そんな教訓が店主・碧さんの記憶に埋まっていました。
明日の「食べる」が少しだけ楽しくなりますように。

松岡 碧さん・高知県土佐市出身
季節に急かされて作るお菓子 / 創作は妄想から始まる / 甘いだけがケーキじゃない
酸っぱくて美味しい失敗 / 無いなら作ればいい / 自分にしかできないことがある場所
25歳、味のない記憶 / 東京で出会った食にアツいベーカリー / お菓子屋がサトウキビを収穫する理由
2025.1.26.Sun
イタドリジャムのパウンドケーキ
季節に急かされて作るお菓子
ー マツオカパウンドでは、春になるとイタドリを使った
パウンドケーキを作ってると聞きました。
うん。
お店でもイタドリジャムを混ぜ込んだパウンドケーキを出してる。
春になったらこれを作らんといかんみたいな使命感があるんです(笑)
梅とか、栗とかと同じ気持ち。
直売所に並び始めたらもう我先にとかごに入れてしまう。

― 高知のおばあちゃんたちが道端に生えるイタドリを
絶対に見逃さないのと同じですね。
まず、この色が好き。
生でも火を入れても、鮮やかじゃないのがいい。
春の緑色という感じがして。
味は、そこまで酸味が強くなくて、優しくて淡い。
春に合う味やなって思う。
イタドリパウンドは、春の始まりをイメージしてるから、
クリームチーズを混ぜ込むんです。
バターだけやったらちょっと重たいかなとか思って。
― チーズも入れるんですね。
お酒に合うものがいいなと思って。
春って、外で花見をしたくなったり、
外で食べるの気持ちいい季節じゃないですか。
昼間にお酒とかと一緒に食べたいなっていうイメージで、
チーズとコショウも上に振りかけます。

― 作っていてワクワクするジャムってありますか?
クリスマスのジャムです。
洋ナシとリンゴをピューレにして、そこにドライフルーツを
色々入れて、スパイスを混ぜる。
クリスマスを頑張るぞっていう気持ちになる。
イタドリも、自分で作るまでは全然ランク外やったけど、
今は自分の中で上位に上がってきた。
ソワソワするもん。ほんとに。「つくらないかん!」って。
「求められてないかもしれんけど、勝手にやらないかん」って(笑)
― ソワソワの正体って何なんですかね。
なんだろう…。
季節を逃すまい!という、謎の正義感かなぁって思います。

創作は妄想から始まる
― お菓子作りはいつも想像してから作るんですか?
妄想が好きで…。
小さい時から あんまり人に自分が考えちゅうことを
知られたくなかったんですよ。
自分の中で、留めておきたい。
自分だけが知っちょけばいいし、
あんまり共感とかしてもらわなくても別にいいです、みたいな。
そんな欲求があって。
― それを言葉ではなく、ケーキにしたためるという。
お菓子作りのスタート地点が妄想にあったとは…。
だから、妄想はお客さんにはあまり伝えんことが多い。
言わん方が、お客さんも自由に食べて、想像してくれる。
「こうやって食べたら美味しかった!」って言ってもらえたら、
「こちらこそ、新しい食べ方教えてもらえて嬉しい。
いろいろ楽しんでもらえてよかった〜。ありがとうございます!」
って思うし。
それが私にとっての新しい妄想の種になるんですよ。
イタドリジャムのパウンドケーキ

【材料】
バター 100g
クリームチーズ 50g
グラニュー糖 40g
きび砂糖 40g
塩 1g
卵 2個
薄力粉 75g
全粒粉 75g
ベーキングパウダー 1g
イタドリジャム 100g
飾り 生のイタドリ、グラナパダーノ、黒こしょう 適量
【作り方】
❶柔らかくしたバターとクリームチーズを混ぜ合わせる。
❷“❶”に砂糖を合わせ、白っぽくなるまで泡立てる。
❸卵1/3を入れてしっかり混ぜる。
❹粉類を少量振り入れて混ぜる。
❺卵1/3→粉類→卵1/3 と混ぜる。
❻イタドリのジャム*を軽く合わせて、残りの粉類を振るい入れ、
しっかりと混ぜる。
❼生地を型(薄くバターを塗って粉をはたいておく)に移し、
表面を平らにならす。
❽飾り用のイタドリ、グラナパダーノ、黒こしょうを上に乗せ、
170度に温めたオーブンで1時間ぐらい焼く。
❾焼き上がったら型のまま冷ます。
イタドリジャム*
【材料】
イタドリ
グラニュー糖 イタドリの50%の量
【作り方】
❶イタドリは葉っぱをとり、皮を剥いて細かく刻む。
❷イタドリに砂糖をまぶして一晩置く。
❸鍋に移して、煮詰める。
― 湯気に乗って、チーズの塩っぽさが香りますね。
ケーキの上に乗せた生のイタドリがパリパリと酸っぱくていい
アクセントになってます。
端っこにいくと、チーズとコショウがピリッと効いてて
急に表情が変わる。
そして、たまに遭遇するイタドリがほんのり甘酸っぱくて美味しい…。

甘いだけがケーキじゃない
― いろんなものをパウンドケーキにしてますよね。
甘いだけではなくて、おかずの入ったパウンド型のケークサレとか。
例えば、お好み焼きは、粉とキャベツと卵でできちゅうじゃないですか。
そのキャベツを色んな野菜に置き換えてる感覚で作っていて。
ケークサレはベーコンと野菜!と思い込んでいたけど、
それを1回やめてみたんです。
その時期にある旬の野菜を自由な組み合わせで作れるようになったし、
自分でもこういう野菜の使い方ができるのが楽しい。
自由に作れるようになると、
もっと自由に食べてもらえるような気がしているんです。

― マツオカパウンドの軸はやっぱりパウンドケーキなんですか。
そうかもしれん。
作ってても、やっぱパウンドケーキが1番楽しい。
焼けるまでどうなるのかわからんっていうのと、
ただただ茶色なところが好きで。
飾り付けせんで完成するところが、
「飾りませんよ、私。」みたいな感じがして好き(笑)